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2016年10月11日火曜日

ぬり松、の変り塗り

先日、雲花・川崎アゼリア店さんに新作を納品したところ、
さっそくHPで紹介していただきました。


雲花さんのリクエストで、今年はお椀を作りました。
変り塗りのマチエールの面白さに加え、金彩との調和が美しく、
今までにない作品になったと思います。


私たちの塗りは
絞漆を使った「変り塗り」が特徴です。

通常は忌避される「縮み(ちぢみ)」という現象を
あえて引き起こすことで、
自然の力が生む神秘的な形状を喚起し、
独特の美しさを表現しているのです。


漆芸技術を学ぶ際は誰でも、「絶対に縮まないように」塗るよう、
指導を受けます。

しかし、わたしたちは、縮みに現れる独特の文様に美を見出していました。


20年ほど前、非常に高い技術を持つ塗り師さんに、
縮みについて伺う機会がありました。


「なぜ縮まないように気を付けなければいけないのですか?」

「縮みはものすごく硬くなって、研ぐのがたいへんだから」

「縮みはかえって器を丈夫にしますね」

「そりゃそうだね(笑)」


それが始まりです。


ツルツルな塗り物を作る場合は邪魔者でしかない「縮み」
ですが、塗りを強固にする効用もあると知り、
試行錯誤が始まります。


狙い通りに縮ませるためには塗りの厚みや漆の調合に工夫が必要でした。
工房は失敗作だらけになりました。

更に、研ぎには一般的に機械を使用しますが、
それができません。
縮みは本当に硬く、研ぐのは根気がいる作業です。

なおかつ、細密画を描く感覚、
あるいは、考古学者が貴重な遺物を発掘するかのような
注意深さが必要です。

地下に眠る設計図を想像しながら、
暗闇を手探りで模索するように、少しずつ研ぎ出してゆきます。

もしうっかり研ぎ過ぎてしまったら、
最初の工程まで戻ってやり直すことになります。

納得するものができるようになったのは、
ここ数年でしょうか。


手間と時間をじっくりかけて制作しているので、
数を多く作れません。

量産できないかとの要望が多く、長い間思い悩みましたが、
ようやく吹っ切れました。

わたしたち人間が一人・一人が違うように、
一点・一点の存在感あるものを作ろう。

そのような立ち位置でやってゆこうと思います。



福岡では、来月に岩田屋さんで開催する個展で
新作を発表します。

こちらでは乾漆の新作も出品する予定で、
現在、鋭意制作中です。

DMが完成したら、あらためてお知らせします。